インテグリティが導いた「奇跡ではない成功」

ブログ 2026.1.2

――羽田空港地上衝突事故に学ぶ、価値を生む経営

お正月は、過去を振り返り、これからの経営の軸を見つめ直す時間でもある。

2年前の1月2日、羽田空港で発生したJAL機と海上保安庁機の地上衝突事故は、多くの経営者にとっても忘れがたい出来事だろう。炎上する機体から、乗客367名全員が18分で脱出。海外メディアはこれを「奇跡」と報じた。しかし、経営の視点で読み解くと、これは偶然ではない。インテグリティを基盤としたERMが機能した結果だったと考えられる。

リスクを「避ける」RMと、価値を生むERMの違い

航空事故は、単一の原因ではなく、複数のミスが重なって発生する。そのため、航空業界では従来、スイスチーズモデルに代表されるRM(リスクマネジメント)が重視されてきた。一方、今回の事故対応を説明するのは、ERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)である。ERMとは、組織が価値を創造・維持・実現するために、戦略と一体化してリスクを管理する考え方であり、日常の実務を通じて人の能力を高め、価値創造へとつなげる経営そのものである。

ここで重要なのが、インテグリティの存在である。インテグリティの考え方は、リスクマネジメントをRMからERMへと転換させる。それは、リスクを「避ける」ための仕組みから、人と組織が価値を発揮するための経営そのものへと進化させることを意味する。

全員脱出を可能にした5つの因子

衝突直後から全員が脱出できた背景を、ERMの視点で分析すると、次の5つの因子が「機会」として機能していたことがわかる。

【スキル】【情報共有】【事実確認】【主体性】【使命感】

これらのいずれか一つでも欠けていれば、結果は異なっていた可能性が高い。特に注目すべきは、主体性である。機長の指示を待つだけでなく、乗員一人ひとりが勇気をもって判断し、行動していた。そこには、命を守るという目的に向かって、知識・技術・判断が統合された一体感があった(下図)。

            ERM視点に基づくスイスチーズモデル分析        出所 筆者作成

「命を守る」という理念が、現場で生きていた

なぜ、ここまでの行動が可能だったのか。その答えは、JALの安全憲章と経営理念、フィロソフィの一貫性にある。JALの安全憲章は、1985年の墜落事故を風化させない決意のもと2002年に制定され、稲盛体制の2011年、その意思を受け継いだ2019年と改定を重ねてきた。2019年の改定では、「安全とは、命を守ること」と明確に言語化されている。この言葉が、単なる掲示物ではなく、判断と行動の拠り所として現場に浸透していた。それこそが、インテグリティが組織に根づいていた証左である。

奇跡ではなく、学習し続けた組織の成果

この事故対応は、突発的な対応力ではない。2016年の新千歳空港での事故を教訓に、JALは緊急脱出訓練など日常訓練を強化してきた。最悪の事態を想定した訓練とシミュレーションが、極限状態でも冷静な判断と行動を可能にした。次の三つが結びついたとき、ERMは現場で機能する。

【理念 × 訓練 × 主体性】

経営者への示唆 ― インテグリティは「実装」されているか

この事例は、航空業界に限らない。自社の理念は、現場の判断基準になっているか、危機の際、社員は主体的に動けるか、教育と訓練は、価値創造と結びついているか、ということが問われている。

インテグリティとは、倫理を語ることではない。理念・判断・行動を一致させ、価値を生み続ける力である。

お正月という節目に、羽田空港の「奇跡ではない成功」から、自社のERMとインテグリティを見直してみてはいかがだろうか。

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