今回は心理的安全性をテーマとして、企業経営におけるコンプライアンス、インテグリティの対比と統合的示唆をお伝えします。
「コンプライアンスの限界」と「インテグリティの重要性」を企業経営に応用する際に、「心理的安全性(Psychological Safety)の確保」は重要なキーワードになります。心理的安全性とはハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)教授が提唱した概念で、2つの研究成果から「チーム内で自分の考え・質問・失敗を安心して表明できる状態」 が、チームの生産性向上の本質的な要因であると述べています。1つ目の研究は、病院の医療チームにおいて、ミスやインシデントの報告が多いほど、「報告・学習・改善」が促進される理論を導きました。2つ目の研究は、Google社において、高い成果を上げるチームの共通要素は、心理的安全性であり、信頼・創造性・パフォーマンスを向上させると結論づけたのです。これらの研究は理論と実践を橋渡しできる成果であるといえます。
企業経営への具体的な示唆として、以下に要点をまとめます。
●コンプライアンス強化だけでは心理的安全性は生まれない
・「守れ」「違反するな」だけでは、恐怖や沈黙の文化が生まれる。
・「問い詰め」「詰問」では、萎縮、無気力な空気が蔓延する。
・「内部通報が少ないこと」に満足していると、問題が潜在化して企業リスクが増す。
● インテグリティの醸成には心理的安全性が不可欠
・ メンバーが正しいと思い行動したことが「間違っていても責めない」環境、むしろチャレンジしたことを称賛する。
・メンバーが自らの価値観・倫理観に従って、「上司に意見しても許される」 という文化が必要。
● 心理的安全性がある組織は、リスクにも強く創造的
・「問題を早期に発見・共有する」ことで迅速な対応が可能である。
・「自由な意見交換」をすることでイノベーションが生まれやすい環境を創る。
持続可能な組織文化の構築には、 社会的・法的に「やってはいけないこと、まちがっていること」を避ける 最低限のルール(コンプライアンス)」と、「やるべきこと、ただしいこと」を自律的に選ぶ倫理・誠実な判断 (インテグリティ)と、生産性を向上させる豊かなコミュニケーションによる安全・安心な職場環境(心理的安全性)が必要です。
それでは、どのように実践すればよいのでしょう。例えば、リーダーの姿勢では、ハラスメントを避けて部下とのコミュニケーションを回避するのではなく、自然体で接する、質問を歓迎する。また、チーム会の運営では失敗を罰するのでなく、学びに変え、ルールの暗記よりも価値観を問うディスカッション形式にする。さらに、メンバーとの接し方では発言しない人に「どう思いますか?」と問うなど、日常のあらゆる業務を企業価値の向上に資することです。「正しいことをする」企業とは、「ルールを守らせる企業」ではなく、「倫理と本音を語れる企業」なのです。
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コンプライアンスの限界、インテグリティの確立、心理的安全性の関係性の概念図をお示しします。風通しの良い職場環境構築の一助になれば幸いです。

