トップに必要不可欠な資質「インテグリティ」

ブログ 2025.9.8

企業不祥事もハラスメントも右肩上がりが続いています。
直近ではサントリーHDの新浪会長の「違法サプリメント購入疑惑」が発覚しました。 インテグリティを理解するうえでわかりやすい事例ですので、少し解説を加えたいと思います。

9月2日のサントリーHDの記者会見において、「サプリを扱う会社のトップとして、サプリ購入にはしかるべき注意を払うことが不可欠の資質」と指摘したうえで「捜査の結果を待つまでもなくトップの要職に堪えない」と判断しました。一方、9月3日の経済同友会の記者会見では、代表幹事を務める自らが「法を犯しておらず、潔白だと思っている」と述べて、「同友会には会員倫理制度などしっかりとしたガバナンスの仕組みがあり、透明性の高いガバナンスに委ねるのが正しいと判断した」と述べています。前者、後者にも矛盾はないように見えますが、同一事象に対する同一人物の判断でもあり、とても興味深いコメントです。

私は、キリングループ など40年近く製薬業界で勤務した後、企業不祥事、企業ガバナンスを踏まえて、「インテグリティ」に関わる研究を2020年から始めています。さまざまな事例の共通の真因は法令違反よりもインテグリティの欠如によるものが多いのです。
経済同友会の制度とは、日本企業が1990年代から順次導入してきた「コンプライアンス・プログラム」です。多くの大企業が制度運用しています。サントリーHDの対応は、コンプライアンス・プロググラムの限界を認識して、その枠を超えて対応していると捉えます。問われているのは、法令を遵守しているか否かではなく、インテグリティが備わっているか否かなのです。

「インテグリティ」は、一般的に「誠実、真摯、高潔」と訳されていますが、語源は「完全、一貫性」、また、個人の資質と解されてきました。組織としてのオーガニゼーション・インテグリティ(Organizational Integrity)」は、リン・シャープ・ペイン(Lynn Sharp Paine)教授(ハーバード・ビジネススクール)が1994年に提唱した概念で、企業倫理や経営を論じる際の重要語です。この概念は「誠実」や「一貫性」といった一般的な意味よりも、もっと広く深い意味を持っており、ペイン教授は、「価値と行動の整合性」と述べています。

サントリーHDには、単なる法令遵守にとどまらず、組織が自律的に理念に基づいた行動をする倫理的な枠組みと文化的成熟があるのだと解します。簡単にいうと、理念に沿った活動を役職員一人ひとりが実践しているかを、日常的に360度、相互に評価する風通しの良い組織文化が定着していると思われます。
トップが属人的な人事を行い、定款の変更や気の向くままルールを作り、関係者との話し合いもなく、一方的に策定するような事象は後を経ちません。また、不祥事が起こる度に、新たなルールが重なり、現場が疲弊する不作為の暴走が広がっています。『失敗の本質』の著者のひとりである一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生は、オーバーコンプライアンス(過剰な法令遵守、統制過剰、過剰規則)が日本の国際競争力低下の原因のひとつであると指摘しています。

インテグリティを実践している企業は率先してトップが倫理的リーダーシップを発揮しているのです。

記事一覧